「家族・地域の絆再生」政務官会議PT中間とりまとめ

現代の日本において,少子高齢化の問題は重大である。このままでは,現行の社会制度は到底維持できない。

少子高齢化対策としては,言明のうえでは合計特殊出生率を上向かせようと試みるものが多いようである。そのなかで,平成18年05月の「『家族・地域の絆再生』政務官会議PT中間とりまとめ」1最近話題になっていた2ので記録しておく。

個人の感性を尊重する気が全く感じられない,ひとつずつ批判していてはきりがないような内容である。国家を運営し存続させたいという立場からはこうした考えになることは理解できる。しかし,その立場からであってもこの表現は問題があると誰も思わなかったのであろうか。当時の時代感覚ではあまり気にされなかったのかもしれない。

とりあえず,最も気になった部分を一つのみ挙げたい。「視点」の中に次のような表現が現れる。

「結婚して子どもを産み育てることが当たり前と皆が自然に考える社会」の実現を目指す。3

国民の考えかたに対して目標を据えている。ふつう,こうしたことが内部的な目標にあったとしてもそうは書かない。そうなってもらうことを念頭に置いていたとしても,制度的な記述に終始するのがふつうである。多くの「為政者の目線で上手な」施策(望ましいかどうかとは異なる)と推察されるものはそうなっている。人間はどうしても感情で動いてしまう。冷静にじっくりと考えればおぞましいことであっても,受け容れやすい環境を整えられ,受け容れやすい言葉づかいで伝えられれば人間は頷いてしまうのである。その点で,幸いにもこの文言はお粗末だ。

私個人としては,国家や種が存続するのがよいことだという前提をそもそも疑ったほうがよいと思うが,それは措いておく。すでに現在親となれる世代は乏しい。したがって,今から社会体制を維持できる人口比に戻すことは,そもそも不可能である。子供を増やすという政策が意味を成すはずだった時期は,すでに何ら意味のあることをしないままに過ごしてしまったのだ。日本を存続させたいのであれば,少子高齢化が進行してゆくことを前提に,どのように少しでもまともな形で国を維持するかという観点で考えなければならない。


  1. 「家族・地域の絆再生」政務官会議PT,「家族・地域の絆再生」政務官会議PT中間とりまとめ。首相官邸,参照 2022-08-29。 ↩︎

  2. アイティメディア株式会社,2006年公表の「あったかハッピープロジェクト」報告書にネットで批判の声 「少子化の原因を個人に転嫁」。ねとらぼ,参照 2022-08-29。 ↩︎

  3. 「家族・地域の絆再生」政務官会議PT,「家族・地域の絆再生」政務官会議PT中間とりまとめ。首相官邸,参照 2022-08-29。 ↩︎